グレーゾーンを放置しないハラスメント防止の取り組み(その3)
Q 社内でハラスメントの相談担当を行っています。複数の従業員から、「特定の管理者からパワハラを受けた」との苦情が寄せられ調査をしましたが、パワハラとは認定されませんでした。しかし、この問題に対して、会社として何もしなくてもいいのでしょうか?
A 管理職の言動が「ハラスメント」と認定されなかったとしても、その行為は、同じ職場で働く労働者の能力発揮に重大な影響を与える可能性が高いと思われます。就業環境を害するおそれがある言動については、職場全体でハラスメント防止の意識を高め、防止のための取り組みを積極的に行っていくことが大切です。
パワハラ防止指針では、相談者と行為者への個々の対応にあわせて、職場全体に向けたハラスメントの再発防止措置を講じることが求められています。
ハラスメントを防止するための取り組みとしては、以下のことが考えられます。
(1) ハラスメント防止規定を作成し、事業主が従業員へメッセージを発信する
就業規則や服務規律の中にハラスメント防止規定を作成し、事業主が「ハラスメントを行ってはならない旨の方針および職場におけるハラスメントを行ったものに厳正に対処する旨の方針」を明確に表明しましょう。トップが方針を表明することによって、従業員が安心して働くことができ、社内の相談窓口も利用しやすくなります。また、行為者に対しても、規定にそって処分されるかもしれないという心理的な抑止力にもなります。
トップの方針表明の場としては、従業員へ向けた挨拶の時(朝礼、年末年始の会、月例会、事業報告会、社内研修会等)に伝えるのが望ましいが、社内報やパンフレット、ホームページなどの広報や啓発のための資料などに掲載したり、配布したりすることも効果があります。
(2)実態を把握する
アンケート等を実施することで、従業員のSOSの声を上げやすくする取り組みもよいでしょう。アンケートは無記名で実施するのが効果的です。自分自身が被害にあっている場合もあれば、周りの同僚が被害にあっていることもあります。早期に情報をキャッチすることで、被害を最小限に食い止めることができます。
(3)教育研修の実施
従業員に対して、ハラスメントに関する研修、講習などを計画的に実施しましょう。
対象としては、管理者や一般職、非正規労働者も含めて実施しましょう。
内容としては、ハラスメントの基礎知識(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)の座学や、コミュニケーション研修(アサーション、アンガーマネジメント等)など実践的な内容もよいです。また、グループワークなどを取り入れた内容の研修は、人との価値観の違いを再認識することができたり、自分の言動を振り返ることができたりし、相手への気遣いや思いやりなど人権意識を高めることが期待できます。
(4)相談窓口の周知・啓発
ハラスメントの相談窓口を社内に限定せず、社外の人事労務やカウンセラーなどの専門家に依頼して設置することも可能です。相談する従業員からみれば、選択肢が多い方が事情に応じて選択できるというメリットがあります。
いずれにしても、ハラスメントの相談窓口を気軽に利用してもらえるよう、ポスターやカード、社内イントラを活用して従業員へ周知しましょう。
相談方法も電話・窓口だけでなく、メールやチャット等でも利用できるよう工夫してみましょう。
(5)日頃の声掛けの中で予防活動
ハラスメントの被害を受けている人は、元気がなかったり口数が少なくなったりと、職場で孤立しがちです。相談窓口に相談をする勇気が持てない人も多いです。相談担当者は、窓口で相談を待つだけではなく、自ら声をかけていくことも時には必要です。日頃の何気ない挨拶や会話をきっかけに、困りごとの相談がスタートすることもあります。
「パワハラと認定されないので大丈夫!」ではなく、ハラスメントの芽を早めに摘んでおくことが大切です。相談窓口担当者が積極的に働きかけることで、未然にハラスメントを防止することができたり、被害を最小限に留めたりすることができます。
(6)相談窓口担当者のケアも大切に
職場における人間関係の調整は、精神的にも身体的にもストレスの負荷がかかり、ハラスメント相談担当者自身もメンタルダウンするリスクはあります。担当者だけがひとり抱え込んで頑張るのではなく、職場の人事・総務・安全衛生の担当者と連携しながら、出来るところから取り組んでいきましょう。場合によっては、外部のスーパーパイザーやカウンセリングが利用できる体制整備も必要です。
行政の利用できるサービスや相談窓口もありますので、積極的に活用されることをお勧めします。
厚生労働省ポータルサイト