労働相談Q&A(全) Feed

2024年7月16日 (火)

グレーゾーンを放置しないハラスメント防止の取り組み(その3)

Q 社内でハラスメントの相談担当を行っています。複数の従業員から、「特定の管理者からパワハラを受けた」との苦情が寄せられ調査をしましたが、パワハラとは認定されませんでした。しかし、この問題に対して、会社として何もしなくてもいいのでしょうか?


A 管理職の言動が「ハラスメント」と認定されなかったとしても、その行為は、同じ職場で働く労働者の能力発揮に重大な影響を与える可能性が高いと思われます。就業環境を害するおそれがある言動については、職場全体でハラスメント防止の意識を高め、防止のための取り組みを積極的に行っていくことが大切です。


 パワハラ防止指針では、相談者と行為者への個々の対応にあわせて、職場全体に向けたハラスメントの再発防止措置を講じることが求められています。
   ハラスメントを防止するための取り組みとしては、以下のことが考えられます。

 

  (1) ハラスメント防止規定を作成し、事業主が従業員へメッセージを発信する

就業規則や服務規律の中にハラスメント防止規定を作成し、事業主が「ハラスメントを行ってはならない旨の方針および職場におけるハラスメントを行ったものに厳正に対処する旨の方針」を明確に表明しましょう。トップが方針を表明することによって、従業員が安心して働くことができ、社内の相談窓口も利用しやすくなります。また、行為者に対しても、規定にそって処分されるかもしれないという心理的な抑止力にもなります。

トップの方針表明の場としては、従業員へ向けた挨拶の時(朝礼、年末年始の会、月例会、事業報告会、社内研修会等)に伝えるのが望ましいが、社内報やパンフレット、ホームページなどの広報や啓発のための資料などに掲載したり、配布したりすることも効果があります。

 

(2)実態を把握する

アンケート等を実施することで、従業員のSOSの声を上げやすくする取り組みもよいでしょう。アンケートは無記名で実施するのが効果的です。自分自身が被害にあっている場合もあれば、周りの同僚が被害にあっていることもあります。早期に情報をキャッチすることで、被害を最小限に食い止めることができます。

 

(3)教育研修の実施

従業員に対して、ハラスメントに関する研修、講習などを計画的に実施しましょう。

対象としては、管理者や一般職、非正規労働者も含めて実施しましょう。

内容としては、ハラスメントの基礎知識(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)の座学や、コミュニケーション研修(アサーション、アンガーマネジメント等)など実践的な内容もよいです。また、グループワークなどを取り入れた内容の研修は、人との価値観の違いを再認識することができたり、自分の言動を振り返ることができたりし、相手への気遣いや思いやりなど人権意識を高めることが期待できます。

 

(4)相談窓口の周知・啓発

 ハラスメントの相談窓口を社内に限定せず、社外の人事労務やカウンセラーなどの専門家に依頼して設置することも可能です。相談する従業員からみれば、選択肢が多い方が事情に応じて選択できるというメリットがあります。

いずれにしても、ハラスメントの相談窓口を気軽に利用してもらえるよう、ポスターやカード、社内イントラを活用して従業員へ周知しましょう。

相談方法も電話・窓口だけでなく、メールやチャット等でも利用できるよう工夫してみましょう。

 

(5)日頃の声掛けの中で予防活動

ハラスメントの被害を受けている人は、元気がなかったり口数が少なくなったりと、職場で孤立しがちです。相談窓口に相談をする勇気が持てない人も多いです。相談担当者は、窓口で相談を待つだけではなく、自ら声をかけていくことも時には必要です。日頃の何気ない挨拶や会話をきっかけに、困りごとの相談がスタートすることもあります。

「パワハラと認定されないので大丈夫!」ではなく、ハラスメントの芽を早めに摘んでおくことが大切です。相談窓口担当者が積極的に働きかけることで、未然にハラスメントを防止することができたり、被害を最小限に留めたりすることができます。

 

(6)相談窓口担当者のケアも大切に

職場における人間関係の調整は、精神的にも身体的にもストレスの負荷がかかり、ハラスメント相談担当者自身もメンタルダウンするリスクはあります。担当者だけがひとり抱え込んで頑張るのではなく、職場の人事・総務・安全衛生の担当者と連携しながら、出来るところから取り組んでいきましょう。場合によっては、外部のスーパーパイザーやカウンセリングが利用できる体制整備も必要です。

行政の利用できるサービスや相談窓口もありますので、積極的に活用されることをお勧めします。 


厚生労働省ポータルサイト

ハラスメント対策「あかるい職場応援団」

働く人のメンタルヘルス「こころの耳」

 

2024年6月14日 (金)

パワハラ認定における懲戒処分(その2)

Q 中小企業の社長をしています。先日、社内のハラスメント相談担当者より、パワハラ事案がありその調査結果の報告を受けました。報告内容を聞くと、パワハラ行為者への懲戒処分を検討しなければならないと感じているのですが、気を付けておくことはありますか?


A  パワハラ行為者への懲戒処分をするときには、就業規則に懲戒の種類、懲戒の事由が定められ、従業員に周知されていなければなりません。処分内容についても、事案の内容と比較して重すぎる懲戒処分は無効となる可能性があります。懲戒処分には、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが求められるので、慎重に判断しましょう。


【ハラスメント対策委員会の設置と事実確認】

パワハラの認定においては事業主のみで判断せず、人事部長や労働者代表(労働組合役員等)、外部の専門家(顧問弁護士や顧問社労士)などのメンバーで構成された委員会(ハラスメント対策委員会)を設置して、ここが中心となって判断していくことが望ましいです。

ハラスメント対策委員会は、パワハラ事案の報告書をもとに、相談者・行為者双方から再度事実関係を確認します。処分に先立ち、パワハラ行為者に弁明の機会を与えることも必要です。

●パワハラと認定できなかった場合
ハラスメント対策委員会でパワハラと認定できなかった場合、相談者・行為者に報告することとなります。その時、相談者から再調査を求められた場合、相談者の納得できない気持ちを傾聴しつつも、新たな事実が出てきた場合のみ対応し、会社としては適正な対処を行った上での調査結果や判断であることを伝えましょう。

【パワハラと認定された場合】
パワハラと認定されたら、そのパワハラ行為が懲戒に値する内容かどうかを検討します。
懲戒処分の判断に際しては、下記の「考慮すべき要素」を参考にしてください。重すぎる懲戒処分は無効となるので、注意してください(労働契約法第15条)。

<パワハラの行為者に対する懲戒処分にあたり、考慮すべき要素>

・パワハラ行為の内容、頻度や期間、常習性
・パワハラ行為についての他の相談者の数
・パワハラによる相談者の被害の程度(相談者が退職に追い込まれているかどうか、精神疾患にり患するなど、健康上の問題が生じているかどうか)
・行為後の謝罪や反省の有無(パワハラではないと否定したり、開き直っているのか否か)
・行為者の過去の懲戒処分歴の有無
・職責、管理職が行為者なのかどうか   など

 パワハラは悪質ないじめ行為等の場合もありますが、熱心に指導をした内容が行き過ぎてしまったという場合もあります。パワハラ自体は許されない行為ですが、その処分にあたっては、懲戒処分として処罰をするのが適切か否かも含めて検討が必要でしょう。

(例)行き過ぎた発言があり最終的にパワハラと評価される行為をした社員が、真摯に反省している場合などにおいて、安易に懲戒処分を選択したことで、会社への貢献意欲等を喪失し、貴重な人材を失うということもあります。

 懲戒処分に値する行為が行われた場合であったとしても、懲戒処分ではなく厳重注意処分(次回同種の問題を起こせば厳しい懲戒処分を行う旨の警告付き)程度にとどめ、改善の機会を付与するという場合もあります。
 しかし、一方で行為者の反省の意思がなく繰り返しパワハラ行為等を行う悪質な従業員の場合は、放置しておくこと自体が極めて問題であり、被害が深刻化しますので、懲戒処分をすることも許容されます。

懲戒処分の種類は、「戒告・けん責・訓戒」「減給」「出勤停止」「降格処分」「諭旨解雇」「懲戒解雇」など、会社によって様々です。

 

【懲戒処分を決定したら】
 会社によってパワハラの再発防止を目的として、懲戒処分を公表する場合があります。ただし、公表するか否かは、行為者だけでなく、パワハラ被害者のプライバシーを保護する観点からも慎重な判断が求められます。

行為者へは、懲戒処分の内容を伝えるとともに、行為者の言動がなぜハラスメントに該当し、どのような問題があるのかを真に理解させることが大切です。

相談者(被害者)へは、行為者との関係改善に向けた援助や、行為者と引き離すための配置転換、また行為者から謝罪させる、などの配慮措置が求められます。その時、相談者(被害者)の意思を尊重するように心がけましょう。また、相談者の労働条件上の不利益の回復やメンタル不調があれば、管理監督者や産業保健スタッフと連携を取りながら対応しましょう。

 懲戒処分については、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談しながら、慎重に対応されることをお勧めします。

ハラスメント相談窓口担当者の役割(その1)

Q 職場のハラスメント相談窓口担当者に任命されました。先日、パワハラを受けているという内容のメールが届き、今度対面でお話を聞くこととなりました。相談対応をするときの注意点や気を付けておくことを教えてください。


まず、社内の就業規則やハラスメント防止規定を確認し、相談窓口担当者の役割がどこまでなのか事前に把握しておきましょう。話を聞く時は、公平・中立を意識しながら、相手の話を最後までしっかり聞きましょう。


全ての事業主には、職場におけるハラスメント防止措置が義務化されており、パワハラ等の相談に適切に対応するために必要な体制の整備を行わなければなりません。

ハラスメントの相談体制は各職場で異なるので、就業規則や服務規律(ハラスメント防止規定)などで事前に確認しておきましょう。また、ハラスメントの相談から懲戒処分までの流れやハラスメント相談担当者の果たすべき役割の範囲も確認しておきましょう。


【相談対応する前の注意点】

  1. 事実関係を正確に把握するためにも、行為者・相談者・関係者への聞き取りは2名で対応し、聞き手担当、記録担当と役割分担しておくとよいでしょう。また、当事者や関係者と利害関係のない担当者を選任することが望ましいです。
  2. 双方の話を聞く時は、どちらかに肩入れしすぎないよう公平・中立に話を聞くよう心がけましょう。先入観をできるだけ持たないようにしましょう。
  3. 相談者に対して、「ハラスメント相談担当者には守秘義務が課せられていること」、「相談したことを理由に不利益な取扱しないこと」「プライバシーは保護されること」を十分説明し、安心して話せる環境を作りましょう。
  4. 相談者および行為者・第三者には、調査にあたって、聞き取りを受けたことやその内容について口外しないことを約束させましょう。また行為者に対して、報復行為は禁止であることを強調しておきましょう。

 

【相談内容を聞く時の留意点】
 パワハラの相談があった場合、会社はパワハラの有無を調査し、事実関係を正確に把握することが大切です。

<相談者への聞き取り>
(1)  最初の聞き取りでは「指導」や「判断」をすることはせず、相談者の言い分に耳を傾け(傾聴)、気になる点があったとしても、反論したり、話を遮ったりせずに、最後まで話を聴きましょう。

(2) 相談を聞く時は、具体的な事実確認に徹して話を聞きましょう。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」など、問題となった発言や行為、その言動に至る経緯、行為者と相談者の関係などについても詳細に調査しましょう。

(3) 相談者の心身の状態を把握しましょう。傷害を負っていないか、精神的にまいっていないかどうか(睡眠や食欲、体調の変化等)を確認しましょう。場合によっては医療機関の受診や産業医へつなぎましょう。

(4) 相談者が何を望んでいるのか確認しておきましょう(ただ聞いてほしいだけなのか、懲戒処分をしてほしいのか、配置転換を希望するのか、等)。

<行為者・第三者への聞き取り>
(5) 行為者および第三者への聞き取りについては、相談者の了解を得てから行いましょう。相談者の了解が得られない場合は、行為者等への聞き取りは原則できません。しかし、放置しておくと職場環境に重大な影響を与えかねない場合や相談者が不利益を被る恐れがある場合は、行為者・第三者への聞き取りの必要性について、相談者に十分理解してもらうよう話し合いましょう。

(6) 相談者の主張が必ずしも事実とは限りません。行為者への聞き取りの際は、あくまでも中立的な立場であることを意識して、先入観を持たないよう、話を聞くことが大切です。

(7) パワハラの対象となる行為を行為者が認めている場合は、その内容を記録しておきましょう。逆に行為者が対象行為を認めていない場合は、相談者や第三者から再度聞き取りを行いましょう。

 
 相談者・行為者・第三者の言い分を照らし合わせ、双方の言い分に食い違いがある場合は、客観的な証拠や目撃者等の第三者の証言に照らして、どちらの言い分が信ぴょう性が高いのかを判断しましょう。話の内容に一貫性があるか、矛盾がないかなども判断の要素となります。

 

【聞き取り後の対応 ~担当者の役割の範囲~】

 パワハラの事実関係の聞き取りが終わると、パワハラの有無について判断することになりますが、ハラスメント相談担当者の役割が、聞き取りまでなのか、パワハラの判断や処分にまで関与するのか、企業や担当者の職責によって異なりますので、再度確認しておきましょう。

 
企業によっては、ハラスメント相談担当者の役割を内容の聞き取りと取りまとめまでとし、社内で構成した専門委員会(例:ハラスメント対策委員会等)が、報告内容に応じてパワハラの認定や処分を行うという役割分担をしている場合があります。


【相談者(被害者)に対する配慮措置の実施】
 パワハラの相談があった場合(最終的な調査結果を待たずとも)、速やかに相談者(被害者)に対する配慮措置を行うことが求められます。相談者と行為者との関係改善に向けた援助や、行為者と引き離すための配置転換、また行為者から謝罪させる、などの対応が考えられますが、相談者(被害者)の意思を尊重するように心がけましょう。


【再発防止に向けた措置】
 パワハラ防止指針では、相談者と行為者への個々の対応にあわせて、職場全体に向けたハラスメントの再発防止措置を講じることが求められています。
 ハラスメントがあったのか、又はハラスメントに該当するのか否かの認定や事実確認も重要ですが、問題となっている言動が改善され、良好な職場環境を回復するためにはどうしたらよいのかも同時に考え、行動することが大切です。

参考フロー図
企業によって相談体制は異なるので、あらかじめハラスメント相談窓口担当者に任せる職務の範囲を明確にしておきましょう。

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(参考)厚生労働省:「職場における、パワーハラスメント対策、セクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」(令和4年11月作成)より抜粋【相談・苦情への対応の流れの例】


関連ページ 職場でのいじめ・パワーハラスメント

2024年4月11日 (木)

事業開始後に廃業しても基本手当(失業給付)を 受けられる特例

Q 事業縮小で会社から整理解雇されました。退職後自分で事業を始めようと思っていますが、事業がうまくいかなかった時のことが心配です。そうなると失業給付はどうなるでしょうか。


A 雇用保険の基本手当(失業給付)は、失業中の生活を安定させるために支給されるもので、求職活動をしている場合に給付されます。したがって、退職後求職活動をしないですぐに起業した場合は受給することができません。しかし、受給資格のある人が受給期間特例の手続きをすることで、最長4年間受給期間を延長することが出来ます。仮に事業が上手く行かず廃業したとしても、基本手当の受給期間が残っていれば、再び基本手当を受給することが可能となりますので、期限までに受給期間延長の手続きをしておくことをお勧めします。


雇用保険の基本手当の受給期間は、原則離職日の翌日から1年以内となっています。しかし、受給期間の特例により、事業を開始等した方が事業を行っている期間等の最長3年間(本来の受給期間1年間と合わせて合計最長4年間)受給期間に算入しないことが出来るので、仮に事業を休廃業しても延長した受給期間中の求職活動であれば基本手当が受けられます。

 離職日の翌日以後に下記の要件を全て満たす事業を開始等した場合は、受給期間の特例を申請できます。

 ① 事業の実施期間が30日以上であること。
 ② 「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過する日が受給期間の末日以前であること。
 ③ 当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと。(受給開始後に起業し、就業手当または再就職手当をもらってしまうと手続きは出来ませんが、就業手当または再就職手当が不支給だった場合には延長申請ができます。)
 ④ 当該事業により自立することができないと認められる事業ではないこと。
  ※次のいずれかの場合は、④に該当します。
  ・雇用保険被保険者資格を取得する者を雇い入れ、雇用保険適用事業の事業主となること。
  ・登記事項証明書、開業届の写し、事業許可証等の客観的資料で、事業の開始、事業内容と事業所の実在が確認できること。
 ⑤ 離職日の翌日以後に開始した事業であること。
 ※離職日以前に当該事業を開始し、離職日の翌日以後に当該事業に専念する場合を含みます。

 
受給期間延長の特例の申請手続きは、事業開始日の翌日から2か月以内に受給期間延長等申請書を開業届等の必要書類とともにハローワークに提出する必要があります。まずはハローワークに確認して、万が一のリスクに備えて手続きをしておいてはいかがでしょうか。

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2024年2月28日 (水)

短期アルバイトの社会保険加入

Q 1カ月の短期アルバイトをすることになり労働条件通知書を貰ったら、雇用保険だけではなく社会保険にも加入と記載されていました。2カ月以内の契約であれば、社会保険に加入しなくても良いはずですがどうなのでしょうか。その場合、社会保険料はいくら引かれるのでしょうか。


A 令和4年10月以降は、雇用期間が2カ月以内であっても要件に該当すれば社会保険に加入するようになりました。


以前は雇用期間が2カ月以内であれば社会保険の適用除外でしたが、令和4年10月以降は当初の雇用期間が2カ月以内であっても以下のいずれかに該当する方は雇用期間の当初から社会保険の加入となります。

①就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
②同一事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されているものが、更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

労働条件通知書の契約期間欄を確認し、「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」にチェックがある場合は雇用期間の当初から加入となります。ご相談者の場合、1カ月の雇用ですが労働条件通知書に「社会保険加入」と記載されているのであればこの要件に該当している可能性がありますので、再度労働条件通知書を確認してみてください。

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仮に「契約の更新はしない」にチェックがついていれば、1カ月のみの契約なので社会保険加入は出来ませんが、所定の期間を超え引き続き使用されるに至った場合は、その日から加入となります。

社会保険に加入することにより、健康保険料、介護保険料(40~64歳)、厚生年金保険料が発生します。毎月の給与額(通勤手当などの各種手当を含む)を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額をもとに保険料を決定します。

例)鳥取県在住(年齢40歳) 
基本給88,000円、通勤手当2,000円 合計90,000円⇒保険料額表により標準報酬月額は88,000円になります。

社会保険

料率

社会保険料 (円)

労働者負担分 (円)

健康保険料率

9.68%

8,518.4

4,259.2

介護保険料率

1.6%

1,408

704

厚生年金保険料率

18.300%

16,104

8,052

29.58

26,030.4

13,015.2

※保険料率は、令和6年3月分(4月から9月納付分)からのものです。


社会保険に加入すると、保険料負担が発生しますが将来もらえる年金額が増えるという大きなメリットがあります。

参考)年金額シミュレーション(厚生労働省 社会保険適用拡大ガイドブックより)
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他にも年金や医療保険の面で今より手厚い保障を受けられるメリットがあります。

社会保険に加入するメリットや短時間労働者の社会保険加入要件などについてはこちらのページを参考にして下さい。
パートの社会保険加入の拡大

パートの社会保険加入の拡大

Q 私はパートで週20時間働いており、雇用保険には入っていましたが、社会保険(厚生年金と健康保険)には加入していませんでした。先日会社から、社会保険に入るよう言われましたが、主人の扶養の範囲内で働きたいのですが入らないといけないのでしょうか?


A 社会保険の被保険者の要件が拡大され、その要件を満たす労働者は加入しなければなりません。どのような働き方をすればいいのか、家族でよく考えて労働契約を結びましょう。


原則は、勤務時間・勤務日数が常勤雇用者の4分の3以上働く方が社会保険(厚生年金保険と健康保険)の加入対象ですが、従業員101人以上の企業又は100人以下の企業でも労使合意に基づき、下記の要件を満たす方にも対象が拡大されました(2024年10月からは51人以上の企業が対象)。

 
【短時間労働者(4分の3未満)加入要件】
以下の項目すべてに該当する方は、加入することになります。

① 週の所定労働時間が20時間以上であること(残業時間は含めない)
② 雇用期間が2か月以上見込まれること(更新の可能性がある方を含む)
③ 所定内賃金の月額が88,000円以上であること(通勤手当、残業代、賞与などは含めない)不明な場合は「時間給×1週間あたりの所定労働時間×52週÷12か月」で計算
④ 学生でないこと(ただし夜間、定時制の方は対象)
⑤ 従業員数(社会保険の対象となっている従業員数)が常時101人以上の企業又は100以下の場合は労使で合意が出来ていること。
⑥ 現在75歳未満であること(厚生年金は70歳未満の方)

【社会保険に加入するメリット
 ・将来もらえる年金が増える
 ・障害がある状態になった場合などに障害年金がもらえる
 ・私傷病や出産で休んでも、傷病手当金や出産手当金がもらえる
 ・会社も労働者とほぼ同額の保険料を負担する

社会保険に加入すると、保険料の負担が増えますが、これまでより手厚い保障を受けることができます。

【その他気をつけるポイント】

〇 年収130万円未満であっても、上の加入要件に当てはまる方は、社会保険の被扶養者とはならず、自身で社会保険に加入することになります。
〇 配偶者が勤務する会社から支給される扶養手当(家族手当等)の支給要件については、各会社によって違いますので、その会社にお問い合わせください。

社会保険の適用関係図5_2


【被保険者の取扱いに係る留意事項】

短時間労働者(4分の3未満)の標準報酬月額の算定に係る支払基礎日数の取扱い

短時間労働者の算定基礎届・月額変更届等における支払基礎日数は、
各月11日以上の勤務日数があるかどうかで判断します。

【もし新たに社会保険に加入する場合】

〇 厚生年金保険と健康保険の加入手続きは勤め先の会社が行いますが、現在、配偶者の健康保険の被扶養者の方は、資格喪失届を配偶者の会社を通じて行う必要がありますので、その旨を配偶者の会社に申し出て下さい。
〇 現在、国民健康保険に加入している方は、国民健康保険の資格喪失の届出を自分で行う必要があります。詳しくはお住まいの市町村にお尋ねください。


なお、この社会保険の加入基準を守らない事業主には、懲役刑または罰金刑とする罰則規定が適用されますのでご注意ください。

2024年2月 2日 (金)

労働条件通知書を受け取るタイミングと記載内容

Q 入社が決まりましたが、労働条件通知書はいつもらうのですか?
また、2024年4月から『労働条件通知書』の記載内容が変わると聞きましたが、どう変わりますか?


A 『労働条件通知書』は、労働条件を企業から労働者に明示する書面で、書面をもらうタイミングは、お互いが合意した時点、つまり労働契約が成立したとき(採用内定~入社)になります。

法改正により、2024年4月から、労働条件通知書の明示事項について新たに

  • 就業場所・業務の変更の範囲
  • 更新上限の書面明示と更新上限を新設・短縮する場合の説明
  • 無期転換に関する事項

を追加して明示しなければなりません。


【労働条件通知書を受け取るタイミング】

 労働基準法第15条及び同法施行規則は、労働契約を締結する際、労働条件について書面等で交付するよう義務付けており、労働契約が成立した時から入社までの間に交付する必要があります(口頭でも労働契約は成立します)。

1_2 労働者は労働条件通知書の交付をうけることによって、労働条件を確認して安心して働くことができるともに、労使間のトラブルを未然に防止することができます。また、実際の労働条件と労働条件通知書の記載内容が異なる場合は、労働者側から労働契約を即時解除することもできます。労働条件通知書の交付は法律上定められた義務です。交付されない場合は法違反となり、罰則の対象となります。

なお、労働条件通知書と労働契約書を合わせて「労働条件通知書兼雇用契約書」として交付している企業もあります。


【労働条件通知書の明示事項の追加(2024年4月1日~)】

①就業場所・業務の「変更の範囲」の明示

全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時のタイミングごとに「雇入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の内容の「変更の範囲」を明示しなければなりません。(2024年4月1日以降に契約締結・契約更新をする労働者が対象)

②更新上限の書面明示と更新上限を新設・短縮する場合の説明

有期労働契約の契約締結時と更新のタイミングごとに、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)がある場合には、その内容の明示が必要です。

また、更新上限を新たに設けようとする場合や更新上限を短縮しようとする場合は、あらかじめ労働者に説明することが必要になります。

③無期転換に関する事項

有期契約労働者に対して、「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)を書面により明示しなければなりません(該当者には契約の都度、無期転換申込機会の明示が必要です)。その場合、無期転換後の労働条件を書面で明示することが必要です。

募集時等に明示すべき労働条件も追加
労働者の募集を行う場合にも、求職者に対して労働条件の明示が必要ですが、2024年4月1日からは、①就業場所の変更の範囲、②従事すべき業務の変更の範囲、③有期雇用契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)の明示も必要となります。

労働条件通知書に明示しなければならない事項

定めをした場合に明示しなければならない事項

①労働契約の期間(通算契約期間が5年を超える有期労働契約の場合は無期転換申込権の明示)改正
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(更新上限の有無と内容)改正
③就業の場所及び従事すべき業務内容(将来、就業場所・従事すべき業務の変更の範囲も明示)改正
④業務の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等 ⑤賃金、昇給に関する事項
⑥退職に関する事項

⑦退職手当に関する事項
⑧臨時に支払われる賃金・賞与最低賃金額に関する事項
⑨労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
⑩安全及び衛生に関する事項
⑪職業訓練に関する事項
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑬表彰及び制裁に関する事項
⑭休職に関する事項

なお、就業規則がある場合は、労働条件通知書に「就業規則を確認できる場所や方法を明示すること」が追加となりました。

労働条件通知書の記載例


 ~労働条件通知書の電子化も~

 労働者が希望した場合は、労働条件通知書をFAXやメール、SNS等で明示できます。ただし、書面として出力できるものに限られます。 


2023年12月22日 (金)

外国人雇用の注意点

Q 人手不足の為、外国人雇用を検討していますが注意点を教えてください。


A 外国人を雇用する際は、日本人と同様に法令を守り、労働条件・保険・税金も日本人採用者と同じ扱いにする必要があります。また、日本人にはない在留資格のルールも守らなければなりません。在留資格によっては就労範囲の限定や就労が禁止されている場合があるので注意が必要です。


労働基準法は労働条件について、外国人に差別的取扱をすることを禁じています。
賃金、労働時間、休日、他の労働条件や健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険などの社会保険、所得税・住民税も原則、日本人と同様の取扱になります。

 また入管法で就労が認められている在留資格には芸術・医療・研究・技能実習などがあり、それぞれの資格で認められている活動以外は出来ません。在留資格を確認することが必要です。

もし認められていない活動内容で就労させた場合、不法就労助長罪により使用者が処罰されたり(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金)外国人が強制送還されることもありますので注意が必要です。(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者については国内活動に制限はありません)

 特に外国人の学生で日本大学、専修学校、高校、各種学校等において教育を受ける場合、在留資格は「留学」であり就労は認められていません。そこでアルバイト(資格外活動)をする際は「資格外活動」の許可を受ける必要があります。この許可を受けることにより1週28時間以内で公序良俗に反しない業務に就労可能になります。雇う場合は、資格外活動の許可をもっているか確認が必要です。

 外国人を雇用した場合、労働施策総合推進法に基づき労働者の氏名や在留資格等をハローワークへ届けなければなりません。雇用保険被保険者に該当する場合は雇用保険資格取得届により、被保険者に該当しない場合は外国人雇用状況届出書により提出します。


参照 外国人雇用のルールに関するパンフレット(厚生労働省)

2023年11月14日 (火)

いろいろな賃金の違い

Q 最低賃金と平均賃金、割増賃金とはそれぞれ何が違うのですか。


A 最低賃金とは、賃金の最低基準でありすべての労働者に適用されます。平均賃金とは、休業手当や解雇予告手当、減給の制裁の限度額などを算出する場合に使われます。割増賃金とは、残業(時間外労働)深夜労働、休日労働をした際に、労働者に対して一定割合を増額して支払う賃金のことです。それぞれ使用される場面や計算方法に違いがあります。


【最低賃金】
年齢に関係なく、正社員やパート、アルバイトなどを含めたすべての労働者の1時間当たりの賃金は最低賃金以上でなければいけません(一部例外あり)。それを下回る場合は、その契約は無効となり法律の基準まで引きあげられます。

最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年10月頃に改定されます。


月給制の場合・・・月によって所定労働時間数が異なるとき

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(*1)諸手当から除外するもの
  ・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)  
  ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)  
  ・割増賃金(時間外労働、休日労働及、深夜労働)                
  ・精皆勤手当、通勤手当、家族手当


【平均賃金】
休業手当等を算定する基礎となるものです。原則、算定すべき事由が発生した日以前3カ月間の賃金をその期間の総日数で割った金額です。(賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日から起算)

3(*2)賃金総額から除外するもの
  ・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)     
  ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  ・産前産後の休業期間など算定期間から除かれる期間中に支払われた賃金

(*3)算定期間から除外するもの
  ・業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
  ・産前産後の休業期間
  ・使用者の責に帰すべき事由による休業期間
  ・育児・介護休業期間
  ・試用期間


【割増賃金】
法定労働時間を超えた労働、深夜(午後10時~午前5時までの)労働、休日(週1日または4週4日の法定休日の)労働をさせた場合、通常の賃金を一定以上割り増した割増賃金を支払わなければなりません。

     割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間×各種割増率

月給制の場合・・・月によって所定労働時間数が異なるとき
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(*4)諸手当から除外するもの(労働の対価として払われるもの以外を除外するという考え方) 
  ・家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当
  ・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)     
  ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) 


最低賃金は、労働者が受けとる賃金の最低の基準を定めたものであり、その基準以上の労働契約でなければなりません。

平均賃金は、事業主の都合で休業する時や突然解雇されてしまった時、業務上の負傷や疾病による休業時やペナルティーにより減給される時、それにより突然収入が絶たれてしまうことを防ぎ、労働者の生活を保障するための休業手当や解雇予告手当、災害補償や減給の限度額の基準として利用されます。

割増賃金は、法定以上の労働時間数や労働時間帯に応じ、法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払うものです。1日における時間外・休日・深夜労働の各時間に端数(1時間未満の時間)が生じても、1分単位の時間を切り捨てることはできません。ただし、1カ月ごとの時間外労働の合計について30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる端数処理をして割増賃金を計算することは認められています。

時給900円のアルバイトで深夜に働いても割増はないの?

Q コンビニで午後7時から深夜2時までの間(休憩1時間)、時給900円の契約でアルバイトをしています。店長から「深夜に働いても労働契約の時給900円だ。最低賃金と同額だから問題ない。」と言われました。人手が足りないときは朝までバイトに入るのに、給料は時給900円でしか計算されません。深夜に働いても割増はないのでしょうか。


A 賃金額は、労使間の労働契約によって自由に決められますが、最低賃金を下回る労働契約は無効です。また、深夜労働(午後10時から午前5時までの時間帯)や法定労働時間を超えた時間外労働には割増賃金が支払われなければなりません。今までの深夜労働と時間外労働に対する差額分を請求(時効3年間)し、今後の適正な深夜割増賃金を会社に求めましょう。


使用者は、正社員やアルバイト、パートなどの雇用形態に関係なく、労働者に時間外労働、休⽇労働、深夜労働を行わせた場合は、法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃⾦を⽀払わなければなりません。(労働基準法第37条)





時間外労働

2割5分以上
(1か⽉60時間を超える場合は5割以上)

休日労働

3割5分以上

深夜労働

2割5分以上

 

割増賃金は、次のように計算します。

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 労働時間が深夜時間帯(午後10時から午前5時まで)の場合、割増賃金率は2割5分以上となるため、労働契約の時給単価に割増賃金率が掛けられた賃金が支払われなければ最低賃金を下回ることになります。また、実際の労働時間が1日の法定労働時間(8時間)を超えた場合は、時間外労働の割増賃金率が掛けられた賃金が支払われることになります。

 (例)午後7時から翌朝6時まで働いた場合(休憩時間:午後11時~12時までの1時間)

①午後7時から午後10時まで(割増無し)
        900円×3時間=2,700円

②午後10時から午前4時まで(深夜割増0.25)休憩1時間のため5時間勤務
        900円×5時間×1.25=5,625円

③午前4時から午前5時まで(深夜割増0.25+時間外割増0.25(8時間を超えるため))
        900円×1時間×1.5=1,350円

④午前5時から午前6時まで(時間外割増0.25)
        900円×1時間×1.25=1,125円

            合計 10,800円 が支払われます。


労働契約によって時給が定められている場合、労働時間帯等に応じた割増額が支払われなければなりません。

ただし、深夜労働のみを行う場合の労働契約では、賃金額に割増率を掛ける方法以外に、契約賃金自体に深夜割増を含めた金額を設定することが可能です。その場合は、賃金額に法定の割増賃金相当分が含まれることが明確、かつ、労働者との間でその旨の合意がされていることが必要です。深夜割増を含めた賃金が用いられる時は、別に深夜労働の割増賃金は払われる必要はないとされていますので、ご自身の契約内容を面接・採用時の説明、労働条件通知書、労働協約、就業規則等で確認しましょう。