労働相談Q&A(全) Feed

2022年1月25日 (火)

マルチジョブホルダー

Q 私は長年勤めていた会社を65歳で定年退職した後、近所のスーパーAで週10時間、ファミレスBで週10時間パートタイマーとして働き始めました。どちらも1年の有期雇用契約です。Aの店長にもBの店長にも雇用保険には加入出来ないと言われましたが本当に出来ないのでしょうか?


A 加入できます。ただし、自分で手続きをしなければなりません。ご住所を管轄するハローワークへ行き、手続きをしましょう。


 令和4年1月1日に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が施行されました。雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、2つ以上の事業所に雇用される65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所で所定の適用要件をすべて満たす場合に本人の申出により特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度をいいます。  

適用要件 ①2つ以上の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
     ②2つの事業所(それぞれ週所定労働時間5時間以上20時間未満)の
      労働時間を合計して週所定労働時間が20時間以上であること
     ③2つの事業所でそれぞれ31日以上雇用される見込であること

 加入手続は、複数の事業所の労働時間を各事業所が把握することは困難なので、労働者本人が行います。労働者は自らの居住地を管轄するハローワークに「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」(マルチ雇入届)を提出することで申出の日からマルチ高年齢被保険者となります。勤務先の事業主の同意は必要とされていません。もっとも、マルチ雇入届には事業主記載欄があるため、労働者から記載を依頼された事業主は速やかに対応しなければなりません。また、マルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入すること等を理由として解雇や雇止め、労働条件の不利益変更など、労働者に不利益な取り扱いをすることは禁止されます。

 雇用保険料の納付義務は、マルチ高年齢被保険者の資格を取得した日から発生します。資格取得日は、ハローワークから事業主宛に送付される「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)」に記載されています。雇用保険料は通常の雇用保険と同様の料率で、労働者本人と事業主が負担します。

 同じく、資格喪失手続も労働者本人が行います。労働者は被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内に自らの居住地を管轄するハローワークに「雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」(マルチ喪失届)を提出します。また、失業等給付の受給を希望する場合には、併せて離職証明書の提出も必要になります。マルチ喪失届には事業主記載欄があるので、労働者から記載を依頼された事業主は速やかに対応しなければなりません。

 失業時の給付は、一時金です。1つの事業所のみ離職した場合でもその事業所の賃金額に基づき支給されます。正当な理由のない自己都合離職である場合等の給付制限も同様に適用されますが、2つの事業所を離職して離職理由がそれぞれ異なる場合は給付制限がないほうに統一されます。

 マルチ高年齢被保険者が3つ以上の事業所で雇用されていた場合は、適用対象になっている2つのうちの1つの事業所を離職等しても、他の事業所の週所定労働時間を合算して20時間以上になるなど適用要件を満たすのであれば引き続きマルチ高年齢被保険者として取扱われます。この場合、労働者は従前の2事業所に関するマルチ喪失届を提出した後、改めて新たな2事業所でのマルチ雇入届を提出しなければなりません。

 

2021年12月24日 (金)

移動時間は労働時間になるのでしょうか?

Q 上司から県外への出張命令が出ました。飛行機や新幹線で長時間の移動になります。
  この移動時間は労働時間になるのでしょうか?


A 労働時間について労基法上では「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。

例えば、始業前の朝礼への参加が義務付けられている時間や制服の着用、業務上必要な装着物品の準備などに要する時間も使用者の指揮命令下に置かれている時間として労働時間に該当します。

そのような観点から、移動時間も労働時間に当たるのではないかと思われるかもしれませんが、移動中に上司から指示されたPC入力やWeb会議の報告書作成や商品の運搬時の見守りなどをしていれば、移動時間は労働時間となりますが、何も命令がなく機内・車内で自由に過ごせる時間であれば日常の通勤時間と同様に考えられるので労働時間とはならず賃金が払われることはありません。

一方で、長時間の移動や宿泊などに要する〝完全に自由ではない時間″に対して、賃金ではなく会社独自の手当(例 出張手当や日当など)を支払っている会社もあります。

 

頻繁な出張の繰り返しや通常勤務との調整で労働者に肉体的・精神的多大な負担が生じている場合は、使用者の安全配慮義務が履行されていない可能性があるため労使間で十分話し合い、適切なルール作りをしてください。


 flairポイント!

・ 手当に含まれる内容や使い道については会社独自の決まりがありますので社内の規定を確認すると良いでしょう。

 ・直行直帰というルールを採用している会社もあります。直行とは、自宅から相手先や現場などへ、会社に寄らずに行くこと直帰とは、相手先や現場などから、会社に寄らずに自宅へ帰ることを言います。この場合、現場に到着してから現場を離れるまでの休憩時間を除いた時間が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間なので労働時間となり、直行直帰の移動時間は通勤時間と判断されます。

2021年11月24日 (水)

職場の温湿度管理について

Q 新型コロナウイルス感染症対策として、事務所の窓が全開で、寒くて仕事に集中できません。衣服を調整したり、ひざ掛けを使用したりしていますが、手足がかじかんでうまく動かせず、コロナを予防できたとしても体調を崩しそうです。こうした環境については問題はありませんか。


A デスクワークが仕事となっている人は、ずっと部屋の中で作業をすることになるので、室温は体調管理を行う上での大切なポイントになります。
温度や湿度を含む職場の快適な空間作りのルールは、基準が設けられており、事業者には適切な温湿度管理が求められます。職場の安全衛生の担当者や安全衛生委員会に改善を求めてみましょう。


○使用者には労働者に対し、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります。(労働契約法第5条)
また、事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、作業環境を快適な状態に維持管理するための措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければなりません。(労働安全衛生法第71条の2第1項)

湿度や温度を直接定めた規定ではありませんが、極端に寒い、あるいは暑い職場で従業員が体調を崩した場合、使用者が安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症対策を講じることも使用者の責務です。この対策が不十分な場合にも使用者は安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

○労働者が働く事務所(建物・施設)についての衛生基準が労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則及び事務所衛生基準規則で事務所の室温・湿度について基準が定められています。

【暖房】
室の気温が10度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
もし室温が10度以下になっているときは、適切な室温に戻すため、ストーブや暖房をつけるなど対策を心がけていかなければなりません。あまりに寒い環境は仕事の効率を下げるだけでなく、体調不良の原因にもなります。もし10度以下でもそのような措置がなされていない場合は法律違反とみなされる場合があり、法人と代表者に6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

【冷房】
室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない。
ただし、電子計算機といった機械を設置している部屋(サーバールーム等)においては、保温のための作業着を着させている限りOKとなっています。

【室温・湿度】
空気調和設備を設けている場合は、室の気温が17℃以上28℃以下及び相対湿度が40%以上70%以下になるように努めなければならない。
ただし、店舗や工場においては、事務作業や電話対応などを行う部屋のみに適用され、商品の製造販売などを行うスペースは適用外となります。


flairポイント!
コロナ対策を講じながら、快適な職場環境を労使で考えていく必要があります。室温変化を抑えられる窓開け換気の方法を提案するなど、まずは職場内で話し合いをしましょう。会社に改善を求めても、対応しない場合は、労働基準監督署へ相談に行くことをおすすめします。


―参考― 
厚生労働省HP 『感染拡大防止と医療提供体制の整備』 クラスター対策

・冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について
https://www.mhlw.go.jp/content/000698866.pdf

・冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/content/000698868.pdf

※世界保健機関(WHO)等は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためと一般住民の健康を維持するために、バランスのとれたものとして、室内温度の下限値を18℃、相対湿度の下限値を40%とすることを推奨しています。

 

2021年10月27日 (水)

副業・兼業について(その3)

Q 副業・兼業をしたとき労災などの保険関係はどうなりますか。


A ◎労災保険について

事業主は、労働者が副業・兼業(複数事業労働者)をしているかに関わらず、労働者を一人でも雇用していれば労災保険の加入手続きを行う必要があります。副業・兼業をしている労働者も安心して働くことができる環境を整備するために、労災保険給付が拡充されました。(R2.9.1~)

ただし、副業が個人事業主や経営者の立場だという理由で労災保険に加入されていない場合は労災給付の対象とはなりません。5

Photo_5 ◎雇用保険について

 雇用保険の適用事業所に勤務している労働者で、
①同一の事業主の下で週20時間以上
②31日以上継続して働く
等の加入要件を満たす場合は雇用保険に加入する義務があります。副業を行っている労働者がそれぞれの雇用関係で加入要件を満たす場合は、主たる賃金を受けている事業所で加入します。そのため、給付事由が生じた時(失業、育休など)は、加入している事業所での収入から給付日額が算定されます。

 また、それぞれの雇用関係が①②の加入要件を満たさない場合は、たとえ労働時間の合算が20時間以上となる場合でも雇用保険には加入できません。

◎労働契約によって雇用保険の適用が異なる例

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ただし、65歳以上の労働者本人から申し出があった場合、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合でも、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用することが試行的に開始されます。(令和4年1月1日から)

 

◎健康保険・厚生年金保険について

 社会保険(健康保険及び厚生年金保険)の適用要件は、適用事業所や被保険者ごとに判断されます。複数の事業所に勤務する労働者がいずれの事業所においても適用要件を満たさない場合は被保険者とはなりません。もしも、配偶者等の健康保険被扶養者となっている方が、副業によって収入が130万円を超える等の場合、被扶養者の認定要件を満たさなくなり、併せて国民年金の第3号被保険者ではなくなります。市町村窓口で国民健康保険・国民年金に加入することが必要です。

また、既に社会保険に加入されている方が、副業先でも適用要件を満たす場合は、副業先でも社会保険の加入手続きをする必要があります。その後労働者本人がいずれかの事業所の管轄の医療保険者及び年金事務所を選択します。各事業所の報酬月額を合算して算定された標準報酬月額を案分した保険料がそれぞれの事業所で控除されます。


flairポイント!
副業を行うことでスキルや経験を得たり、やりたいことに挑戦でき、キャリア形成や自己実現を追求できますが、自身による就業時間や健康管理も一定程度必要となります。
また、所得の増加によって保険料などに変更が生じるものもあるので注意しましょう。

2021年10月 1日 (金)

副業・兼業について(その2)

Q 副業・兼業を開始して、それぞれの会社で残業をした場合、割増賃金はどうなりますか?


A 所定労働時間の通算に加えて、自社と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が割増賃金の発生する時間外労働となります。(※所定労働時間は、労働契約を締結した順で通算します。)

(例)所定外労働時間の通算

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『副業・兼業の促進に関するガイドライン』より

労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間が自らの事業所の36協定の範囲を超えてはならず、その時間外労働時間に応じた割増賃金を支払う必要があります。

また、自社と他社の時間外労働の合計が、上限規制(時間外・休日労総時間が単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でなければいけません。

(例)A社:所定労働時間7時間、B社(後で契約):所定労働時間2時間の場合

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『労働関係法のポイント』より


flairポイント!

所定外労働時間の通算は、所定外労働が行われる順に計算し、法定労働時間を超えた場合にはその会社で割増賃金が発生します。また、それぞれの時間外労働は各事業所の36協定の範囲内でなければならず、それらの合計は上限規制の範囲内でなければいけません。


2021年8月30日 (月)

副業・兼業について(その1)

Q 先日入社した会社の就業規則を見せてもらったら、「副業・兼業をすることが出来る」と記載してありました。今後、副業をしたいと思った時はどうすれば良いですか?


A 副業・兼業を行う場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか、長時間労働を招くものとなっていないか等を確認するため、労働者からの事前の届出により各々の使用者と労働者の間で把握しておくことが望ましいとされています。まずは就業規則等を確認し、定められた方法に従い会社に届出をしましょう。

自分の就業時間(副業・兼業先を含めた)や健康状態を自己管理し過重労働にならないよう就業して下さい。


副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由とされており、副業・兼業を認める方向で検討することが適当とされています。

副業・兼業は、企業に雇用される形で行うもの、起業して事業主として行うもの、請負や委任といった形で行うものなど様々な形態があります。

副業・兼業先でも雇用されている場合には、労働時間を通算して管理(※)する必要が生じてくるため下記について各々の使用者と労働者の間で確認し合意しておくことが望ましいです。

  • 副業・兼業先の事業内容
  • 副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
  • 副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
  • 副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時間
  • 副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
  • 副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続き
  • これらの事項について確認を行う頻度

(※)労働基準法第38条で、「事業主が異なる場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する」とされています。


(例)所定労働時間の通算
  労働契約を締結した順で通算し、法定時間外労働が発生した場合には割増が必要になります。

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「副業・兼業の促進に関するガイドライン」より


flairポイント!
副業・兼業をするにあたっては、労働者自身と両方の使用者が労働時間の管理や健康管理をする必要性が生じてきます。各々の使用者と労働者がコミュニケーションをとり過労によって健康を害していないか、業務に支障をきたしていないか確認をすることが望ましいです。

2021年8月 4日 (水)

退職後も継続してもらえる傷病手当金

Q 1週間前にがんの診断を受け、近々手術を予定しています。いまは有給休暇をとって会社を休んでいますが、手術後には抗がん剤治療が始まることもあり、有休をすべて使い切ったら退職しようと考えています。退職後、傷病手当金をもらえると聞きましたが本当でしょうか?


A 傷病手当金とは、健康保険の被保険者が私傷病で療養中の働くことができない日について協会けんぽ(又は健康保険組合)から支給されるお金で、生活保障を目的としているため勤務先から給与が払われている間は支給されません。

在職中であれば入社後たった1日でも、傷病手当金の支給を受けることができます。しかし、退職後も継続して給付を受けるためには退職日までに少なくとも1年間は被保険者であることが必要です。

また、受給するためには、連続3日間の待期期間が必要です。この連続3日の待期期間は無給であることを要しません。たとえ年次有給休暇を取得していても完成するので、有給休暇を1週間前からとっていれば待期期間は完成しています。その後、有休を使い切って退職した場合は、退職日の翌日以降最長1年6ヶ月間支給されることになります。ただし、退職日に出勤してしまうと、退職後の給付を受けることが出来なくなるので注意してください。

退職後は手続きができなくなるので、退職日の前日までに申請手続きを済ませておき、会社から給与が支払われなくなった日以降直ちに給付を受けることができるようスタンバイしておきましょう。

 余談ですが、退職後引き続き受給されている方が任意継続被保険者になっても給付はされますが、任意継続被保険者の方には傷病手当金は支給されないのでお間違えないようにしてください。


flair参考

2022年1月から、受給期間が通算で1年6か月まで出るようになります。

現行では、受給開始から1年6か月までとなっていましたが、これからは通算なので、療養と仕事を両立しながら職業生活を送ることも可能になります。

2021年6月29日 (火)

契約書類を確認するタイミング

Q 入社が決まりましたが『労働条件通知書』と『労働契約書』の違いがわかりません。

それらをもらうタイミングはいつになりますか?


A 『労働条件通知書』は、労働条件を会社から労働者に提示する書面です。そのため、労使双方の署名捺印などは必要ありませんが、労働契約を締結する際、労働条件を提示することによって労働者は諸条件に納得して入社することができるし、入社後に企業が恣意的に労働条件を変更することを阻止することもできます。また、実際の労働条件と労働条件通知書の記載内容が異なる場合は、労働者側から労働契約を即時解除することができます。労働条件通知書の交付は法律上定められた義務なので、交付されない場合は罰則の対象になります。

一方、『労働契約書』は、労働契約の成立を明らかにするための書面です。労働契約は会社と労働者の合意で成立するため、労働契約書の作成は法律上の義務ではありません。したがって、たとえ会社が作成しなくても違法ではありません。

 

書面をもらうタイミングは、お互いが合意した時点、つまり労働契約が成立したときになります。

1  ※採用決定・内定時に『労働条件通知書』をもらうことで契約を交わす前に労働条件を確認できます。

労働条件通知書と労働契約書を合わせて「労働条件通知書兼雇用契約書」として交付している企業もあります。 


【労働条件通知書】とは?

労働基準法第15条及び同法施行規則で、労働契約を締結する際、労働条件について書面等で交付(①~⑥)するよう義務付けています。以下の項目が明示義務となっています。

①労働契約の期間、有期労働契約を更新する場合の基準 ②業務の場所、内容 ③業務の開始・終了時刻、残業の有無、休憩時間 ④休日、休暇 ⑤賃金の決定、計算方法、支払方法 ⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む) ⑦昇給に関する事項

退職金や賞与などの制度を設ける場合はそれらも明示しなければいけません。

 ~労働条件通知書の電子化も~
これまで労働条件通知書は、紙での交付しか認められてきませんでしたが、2019年4月より労働者が希望した場合にはFAXやメール、SNSによる交付が認められるようになりました。ただし、この場合も印刷して書面にできる形式であることが条件となっています。 

 

【労働契約書】とは?

労働者と使用者の両者が合意していれば「労働契約」は成立します。そのため、法律上書面作成の義務はありませんが、労働契約法4条では、労働者と使用者(企業)が労働契約の内容についてできる限り書面で確認するよう規定しています。


flairポイント!

 口頭による契約でも労使が合意していれば「労働契約」は成立します。しかし、お互いの認識の違いから発生するトラブルを避けるために、契約が成立した時点で労働条件通知書の交付を受けましょう。

2021年5月13日 (木)

採用に当たっての身元保証書について

Q 入社時に、身元保証人が必要とのことで身元保証書を記入するよう渡されました。内容を確認したところ、「本人の行為により生じたすべての責任を負う」と記載されており、身元保証期間についての記載はありません。このような内容の身元保証書は問題ないのでしょうか。


A 身元保証書は、労働者が使用者に損害を与えた場合に、第三者である身元保証人がその損害を賠償することを主な内容とするもので、使用者と身元保証人との間に身元保証契約が成立します。使用者が労働者に対して身元保証人を求めること自体に法的な制限はありませんが、身元保証人に求めることができる賠償の範囲・期間等については、「身元保証に関する法律」(以下「保証法」という)によって制限があります。身元保証書の記載内容に疑問があれば、提出前に使用者にその主旨を確認されることをお勧めします。


(1)身元保証契約の存続期間 身元保証契約の有効期間は、
・期間の定めのない場合は一般には3年(保証法第1条)
・期間の定めをした場合でも、最長5年(保証法第2条第1項)
・更新も可能だが、その期間は5年が限度(保証法第2条第2項)。
なお、「契約期間の満了時に異議がない時は更新する」という自動更新の規定があっても、無効となり、更新する際には、新たに契約を締結する必要があります。

(2)保証責任の賠償範囲

賠償の対象となるのは、被用者本人の直接、間接の労務に関連した行為により、使用者が受けた損害に限られる(保証法第1条)。
ただし、その損害額全てに対してではなく、
ア 使用者の監督過失の有無
イ 身元保証をするに至った事由
ウ 被用者の任務または身上の変化、その他一切の事情を斟酌し、裁判所がその賠償額を決定する(訴訟となった場合)(保証法第5条)。

つまり、保証人が賠償する額は、使用者の被った損害額そのものではなく、裁判所が合理的な額について定めることになります。

又、2020年4月の民法の改正により、身元保証契約の際に賠償額の上限を決めることが義務付けられました(民法第465条の2第2項)。
したがって、身元保証契約において、この上限額が定められていない身元保証契約は無効となります。

(3)使用者の通知義務(保証法第3条)

使用者は身元保証人に対し、次の通知義務があります。

ア 本人に業務上不適任または不誠実な事跡があって、そのため身元保証人に責任を生ずる

おそれがあることを知ったとき。

イ 本人の任務または任地を変更したことにより、身元保証人の責任が加重となり、または

その監督が困難となるとき。

(4)身元保証人の契約解除権(保証法第4条)

身元保証人は、上記(3)の通知を受けたとき、または自ら上記(3)の事実を知ったときは、身元保証契約を解除することができます。


flairポイント!

身元保証書に保証期間についての定めがなくても永久に保証責任があるわけではなく、その期間は3年とされますし、賠償責任の範囲についても、無制限に全額負担するものではありません。

2021年4月19日 (月)

年次有給休暇中の急な呼び出し

Q 年次有給休暇を取得していた従業員を緊急の業務のため呼び出し、午前10時から午後2時までの4時間勤務させました。この場合の有給休暇はどのように扱えばよいでしょうか。


A 年次有給休暇は、本来労働義務のある労働日に労働することを個別に免除する日です。従って使用者の都合によって呼び出すことは原則できません。

しかし、労働者本人の自由意思により使用者からの呼び出しに同意して、出勤に応じた場合は勤務してもらうことも可能です。

この場合は年休を与えたことにならないため、年休取得を取り消して、改めて別の日に1日の年休を与える必要があるでしょう。


年休は、原則「1労働日」単位で付与されるものです

1労働日とは通常労働日の午前0時からの24時間とされています

急な呼び出しによる出勤時間が1労働日の一部であっても、その日は年休を与えたことにはなりません。

また年休は通常の労働日に労働義務が免除されているのにすぎず、休日ではありません。

従って労働者が呼び出しに応じて勤務した場合は、通常の労働日に勤務を行ったことになります。この場合、法定労働時間内の勤務であれば、割増賃金を支払う必要はないので、1日分出勤すれば、1日分の給与の支払いで問題はありません。

しかし、急な業務が終了し、帰るよう言われた場合には「使用者の責に帰すべき事由による休業」になるので、休業手当の支払い(平均賃金の100分の60以上)が必要となります。

仮に、この日の実際に労働した時間に対する賃金支払い額が平均賃金の100分の60以上であれば休業手当を支払う必要はありませんが、100分の60に満たない場合は100分の60に不足する分(差額)を支払う必要があります。


flairポイント!
年次有給休暇取得中の労働者を呼び出して勤務させる場合は、賃金トラブルにならないように注意する必要があります。安易な呼び出しは控えましょう。